マルチスケール サーフェス偏差 (Multiscale Surface Deviation) の仕組み

[マルチスケール サーフェス偏差 (Multiscale Surface Deviation)] ツールは、(近傍のサイズが異なる) 空間スケールの範囲における最大サーフェス偏差を計算します。 このツールの出力として、セルのこの偏差および偏差が見つかったスケールが返されます。

これらの出力に基づいて、入力サーフェス ラスター上のフィーチャとそれらのフィーチャに関連付けられているスケールを解釈することができます。 以下の画像は、同じ入力サーフェスでの 2 つの異なるスケールの結果を示しています。 一方の出力では 9 x 9 セルのスケールが使用されているのに対し、もう一方の出力では 29 x 29 セルのスケールが使用されています。 ここでは、小さなスケールは地形の局地的な変化に対する感度が大きく、比較的小さなサーフェス フィーチャが取り込まれています。 これに対し、大きなスケールでは細部はあまり表示されず、比較的大きなサーフェス フィーチャだけが表示されています。

2 つの異なるスケールでの偏差出力の例
同じ範囲における偏差出力を小スケール (2 つ目の図) と大スケール (3 つ目の図) の 2 つの異なるスケールで示しています。

最大偏差値の計算方法

次の手順では、ツールで使用される内部プロセスの概要を示します。

  1. [最小近傍距離][最大近傍距離][基本距離の増分][非線形ファクター] の各パラメーターを使用して解析のスケールを定義します。 これらのパラメーターの単位は [距離単位] パラメーターによって制御されます。
  2. セルごとに、指定された各スケールでの偏差が計算されます。
  3. 計算された偏差がスケール間で比較され、最大偏差値が返されます。

各手順の詳細については、以下のセクションで説明します。

解析されるスケールの特定方法

解析のスケールは、[マルチスケール サーフェス パーセンタイル (Multiscale Surface Percentile)] ツールのオプションのパラメーターを使用して指定します。 [最小近傍距離] パラメーターで解析の最小スケールを設定し、[最大近傍距離] パラメーターで解析の最大スケールを設定します。 [基本距離の増分] および [非線形ファクター] パラメーターは、最小スケールと最大スケールの間の近傍距離の増分を制御します。

各縮尺は、近傍距離値として表されます。 解析は、入力パラメーターの設定に応じて、複数の近傍距離に対して実行されます。

ターゲット セルについて、ターゲット セルの中心から外側に近傍距離が測定され、ターゲット セルの周囲にセルの正方形が作成されます。 たとえば、以下の図に示すように、入力サーフェス ラスターのセル サイズが 10 メートルで近傍距離が 30 メートルの場合、7 x 7 セルの近傍になります。 この 30 メートルという値は、最大偏差が計算されるスケールの 1 つになります。

近傍距離と移動ウィンドウのセル数との関係
近傍距離 (オレンジ色のライン) と移動ウィンドウのセル数との関係が表示されています。 セル サイズが 10 メートルの場合、近傍距離が 10 メートルなら 3 x 3 セルのウィンドウが使用され (デフォルト)、近傍距離が 20 メートルなら 5 x 5 セルのウィンドウ、近傍距離が 30 メートルなら 7 x 7 セルのウィンドウが使用されます。

許容される最小の近傍距離は、入力ラスターのセル サイズと同じです。 これは 1 セルの値で、3 x 3 セルの近傍を作成します。 上の例では、最小近傍距離は 5 メートルです。

近傍距離は、入力サーフェス ラスターより大きくできません。

指定された近傍距離がセル サイズの倍数にならない場合は、ツールは距離をセル サイズの次の倍数に切り上げます。 たとえば、上図で近傍距離 25 メートルが指定された場合、セル サイズの次の倍数である 30 メートルに切り上げられます。

最初に [最小近傍距離] パラメーターの値で計算された後、以降の各近傍距離が計算されます。

以降で使用される近傍距離の計算式は次のようになります。

ni = no + [Δn × (i - no)]p
  • ここでは、

    ni = ステップ i の近傍距離

    no = 最小近傍距離

    Δn = 基本距離の増分

    i = 近傍距離が計算されるステップ (ここで、1 つ目のステップの値は 1 + no)

    p = 非線形ファクター

計算された新しい近傍距離それぞれについて、[最大近傍距離] パラメーターの値以下であるかどうかがチェックされます。 新しい距離の値が最大値以下である場合、近傍距離の計算が続行されます。 新しい値が最大値より大きい場合、すべての近傍距離の計算が完了しているため、偏差の計算が開始されます。

解析のこの部分の詳細については、以下の「偏差の計算方法」セクションをご参照ください。

近傍距離に対する非線形ファクターの影響

[非線形ファクター] パラメーターは、近傍距離の増分のラスターを制御します。 デフォルト値は 1 で、近傍距離が線形に増加します。 つまり、近傍距離の増分は [基本距離の増分] パラメーターの値と等しくなります。

[非線形ファクター] パラメーターの値を 1 より大きくすると、1 つ目以降は近傍距離の増分が変化します。 1 つ目の増分は [基本距離の増分] の値と等しくなり、以降のすべての増分はサイズが徐々に大きくなります。

[非線形ファクター] パラメーターの値を 1 より大きい値に設定すると、1 つ目以降の近傍距離の増分は徐々に大きくなります。 さらに、最小近傍と最大近傍の値は同じである場合、非線形ファクターが大きい方が全体として近傍距離の数が少なくなります。

以下の図は、[非線形ファクター] パラメーターの 3 つの異なる設定の影響を示しています。 この例では、1.0、1.5、2.0 に設定されています。 どの設定でも、他のパラメーターの値は同じです。 [最小近傍距離] パラメーターの値は 1、[最大近傍距離] の値は 10、[基本距離の増分] の値は 1 です。

非線形ファクターの 3 つの設定のいずれにおいても、近傍距離の 1 つ目の増分は同じ値 (2 セル) です。 これ以降は、近傍距離の値が変化していきます。 非線形ファクターが 1.5 ではこの増分が徐々に大きくなり、ファクターが 2.0 ではこれがさらに大きくなります。

[非線形ファクター] パラメーターの値が 1.0 の場合、増分の数は合計 9 つになり、各増分は前の増分より線形的に大きくなります。 ファクターの値が 1.5 の場合は増分の数は 4 つだけ、値が 2.0 の場合は増分の数が 3 つになります。

非線形ファクターについて説明している図
非線形ファクターの値を 1.0 より大きくすると、増分のサイズが徐々に大きくなるため、近傍距離が早くに増加します。 これにより、非線形ファクターに大きな値を使用した場合、最小近傍距離と最大近傍距離が同じでもスケールの数は少なくなります。

[非線形ファクター] パラメーターを使用して、スケールのサンプリング密度をカスタマイズすることができます。 [非線形ファクター] パラメーターに 1.0 より大きい値を使用することで、スケール サンプリング密度を小さいスケールでは高くし、大きいスケールでは低くすることができます。 ただし、必要な数の増分にするために [最大近傍距離] パラメーターの値を大きくする必要が生じることがあります。 ほとんどの場合、非線形ファクターには 1.0 ~ 2.0 の値を使用します。

偏差の計算方法

偏差は、値がデータセットの平均などの固定値とどの程度異なるかを表す統計的尺度です。

[マルチスケール サーフェス偏差 (Multiscale Surface Deviation)] ツールでは、計算された各近傍距離および入力サーフェス ラスター内の各セルについて、偏差が計算されます。 最大偏差値が特定され、[出力偏差ラスター] パラメーター値に記録されます。 これらの偏差が見つかった縮尺が [出力スケール ラスター] パラメーター値にセルの値として記録されます。

偏差を計算する際には、まず分散が計算され、次に標準偏差が計算されます。 これらの計算について、以下で説明します。

まず、セルごとに分散が計算されます。 使用される式は、次のとおりです。

分散の式
  • ここでは、

    σ = 近傍のセル値の分散

    xi = 近傍のセル i の値

    n = 近傍のセルの総数 (NoData セルは含まない)

次に、分散値を使用して各セルの標準偏差が計算されます。 使用される式は、次のとおりです。

標準偏差の式
  • ここでは、

    sd = 近傍のセル値の標準偏差

    σ = 近傍のセル値の分散

最後に、標準偏差値を使用して偏差値が計算されます。 使用される式は、次のとおりです。

最後の偏差値の式
  • ここでは、

    Deviation value = 比較のために保存される出力偏差

    xc = 近傍の中央のセルの元の値

    mean = 近傍のセル値の平均値 (NoData セルは含まない)

    sd = 標準偏差

平均値を効率的に計算するために積分画像のアプローチが使用されます (Lindsay 他、 2015 をご参照ください)。 このアプローチでは、パフォーマンスを向上させるために近傍の局所和が事前に計算されます。 最大偏差値が特定され、[出力偏差ラスター] パラメーター値に記録されます。 これらの偏差が見つかった縮尺が [出力スケール ラスター] パラメーター値にセルの値として記録されます。

GPU の使用

このツールは、特定の GPU ハードウェアをシステムにインストールしている場合に、パフォーマンスの向上が可能です。 この機能をサポートする方法、構成する方法、および有効化する方法の詳細については、「Spatial Analyst での GPU 処理」をご参照ください。

参考文献

Lindsay, John B., Jaclyn M. H. Cockburn, Hanzen A. J. Russell. 2015. "An integral image approach to performing multi-scale topographic position analysis." Geomorphology Volume 245, pp. 51–61. https://doi.org/10.1016/j.geomorph.2015.05.025

Newman, Daniel R., John B. Lindsay, and Jaclyn Mary Helen Cockburn. 2018. "Evaluating metrics of local topographic position for multiscale geomorphometric analysis." Geomorphology 312, 40–50. https://doi.org/10.1016/j.geomorph.2018.04.003

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